薬膳の基礎知識 [ 会員専用 ] 




不内外因とは、外因でも内因でもない病因によって疾病が引き起こされる場合で、不適切な飲食によるもの、運動不足など生活習慣の乱れ、労逸過度、臓腑機能の失調や気・血・津液などの巡りが阻害されることで生まれる病理産物である瘀血、痰飲が病因になる場合をいいます。

     





飲食は生存のためには必要なものですが、不適切な飲食は疾病の原因になります。黄帝内経には、「因而飽食、筋脈横解、腸澼為痔。因而大飲、則気逆」(食べ過ぎにより脾胃を傷め、筋肉を司る働きが低下し、腸の働きが鈍くなり、痔疾が発生する。飲み過ぎのために水が停留し、気の巡りに影響する。)とあります。
不適切な飲食には、飲食の不摂生、食物の不衛生、偏食などがあります。飲食と関係のある臓腑は、脾・胃・肝・胆・小腸・大腸です。また五気五味も大きく影響します。

 飲食と疾病

① 飲食不摂生


   

   
飲食習慣の乱れにより、脾胃の運化機能が失調し、栄養のバランスが崩れたり、気血が不足すると正気も虚弱になり抵抗力が衰えるので疾病にもかかりやくなります。
過 食: 食事の回数・量が多すぎにより脾胃を傷め食積を形成します。
拒 食: 食物の摂取不足により営養失調、気血不足、正気不足、抵抗力の低下がおこり、
     さまざまな病を引き起こします。
② 飲食不潔 不衛生なものを食べるといろいろな胃腸疾患を引き起こし、吐き気・嘔吐・腹痛・下痢などが発生します。
③ 偏  食 飲食にはバランスが必要です。肥甘厚味の過食は湿熱発生させ、辛辣の過食は胃熱の発生と陰液を消耗させ、生冷の過食は脾陽を障害し、寒湿が発生し疾病 を引き起こします。

 五味と疾病の関係

五味 五臓 影響する臓腑・組織 症  状
 肝、脾、筋  唇の脹れ、割れ
 脾、胃、肺  皮膚の乾燥、脱毛
 心、腎、筋肉  胃痛、脱毛
 肝、心、筋、脈、精神、皮膚  肢体痙攣、身体の乾燥
 腎、脾、心、血、骨、筋肉  血瘀、黒色

 飲食の症状とその分析

症  状 分  析
胃腸脹満・胃もたれ・胸やけ・吐き気・げっぷ・下痢・痔・または食欲旺盛・喉の渇き・多飲・痰多・発汗・息切れ・浮腫み・肥満・様々な化膿症 過食、飲酒過度により、脾胃の運化機能が失調する。
長期になると皮膚の化膿症も現れる。
美食は肥満になりやすい。
食欲がない・食べる量が少ない・疲れやすい・目眩 拒食、食べる量が少ないために気血を作る源が
不足し、気血両虚証になる。
吐き気・嘔吐・腹痛・下痢・または食中毒・腸の寄生虫症 不衛生な飲食により、胃と大腸機能の失調をまねく
胃腹疼痛・冷え・下痢・または喉の渇き・口臭・胃腹脹満・胸やけ・便秘 嗜好品あるいは温熱寒涼の食の偏りにより、
冷えあるいは内熱の症状が現れる。
皮膚の乾燥・脱毛・皮膚が黒くなる・唇が割れる・骨痛 酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味の偏りにより、
関係する臓腑の機能が失調し疾病が起きる。

 飲食に対する薬膳対策(処方)
 
飲食により起こる疾病はその原因を正せばよくなることが多く、食事面の改善や偏食や不規則な食習慣などの見直しや食品衛生面も注意をします。
食欲がない、食べる量が少ない、胸やけ、胃のもたれ、げっぷ、吐き気などに必要に応じて「消食和胃」(消化を促進し、胃の機能を調える)の食材や中薬を選びます。

 飲食不摂生に対する薬膳処方とよく使われる中薬と食材

飲食不摂生 関係する臓腑 薬膳対策 生 薬 食 材 方  剤
過  食
拒  食
偏  食
飲食不潔
脾、胃、肝、
胆、小腸、
大腸
消食和胃 山楂子、麦芽、
穀芽、神曲、
菜菔子、鶏内金
おこげ、大麦、
大根、かぶ、
みかん、レモン
保和丸(ほわがん) 
山楂子・神曲・半夏・茯苓・陳皮・連翹・菜菔子

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「労」とは過労、「逸」とは何もしない状態をいいいます。適度の労働や運動は体質を強化させ、十分な休養は疲労をとりのぞき、体力を回復させます。逆に過労や怠惰な生活などの原因で臓腑機能の失調を起こすことがあります。


 労逸過度の特徴

肉体的過労:筋肉・骨・筋を傷め、気を消耗し全身の気機の活動を低下させる。
精神的過労:過度の思慮は、心脾を損傷し、心血を消耗し、脾の運化を障害する。
性行為の過剰:腎精を消耗し、腎・肝を傷める。
休息や安楽の過度(運動不足):気血の運行を減退させ、精神不振になる。

 過労と疾病の関係

過 労 気 血 五 臓 病 機
① 久視傷血 血を傷める 心・肝を傷める 心は全身の血脈を司る。肝は目に通じる
② 久臥傷気 気を傷める 肺を傷める 肺は全身の気を司る。
③ 久座傷肉 肉を傷める 脾を傷める 脾は四肢と筋肉を司る。
④ 久立傷骨 骨を傷める 腎を傷める 腎は全身の骨を司る。
⑤ 久行傷筋 筋を傷める 肝を傷める 肝は全身の筋を司る。
※『素問・宣明五気篇』より

 労逸過度の症状とその分析

症  状 分  析
疲れ、喘息、心悸、四肢の無力、関節の痛み 肉体的過労で気虚となり、筋肉と関節に影響が出る。
心悸、健忘、不眠、多夢、食欲減退、腹脹、下痢 精神的過労により、心血を消耗して精神的な症状が現れ脾気を傷めるために消化機能の低下の症状を起こす。
食欲がない、疲労感、心悸、精神不振、目眩、耳鳴り、息切れ、浮腫み 何もしないでいたり長期間床に就いていたりすると、気の巡りが停滞して血の流れが悪くなるため身体の不調が出てくる。
足腰が怠い、精神不振、目眩、耳鳴り、性機能の低下 性生活が過度になると腎と肝を傷め、精力不足となる。

 労逸過度の薬膳対策

安逸が原因の場合 : 運動や生活活動強度を高めて改善できる
性生活が過度の場合: 適度な性生活を心がける
肉体的過労の場合 : 営養と休養により体力の回復を図る。気血を養い精神を安定させる効能のある食材や中薬を選択します。
精神的過労の場合 : リラックス効果を高めるもの、養心安神類の食薬を摂るようします。

 過労に対する薬膳処方とよく使われる中薬と食材

[益気養血安神] 気血を養い、精神・情緒を安定させる。
気血両虚、精神的な過労の症状の治療法です。疲れやすい、無気力、顔色蒼白、目眩、動悸、不眠の症状や精神不安、緊張、心悸などの症状に用います。

症 状 関係する臓腑 薬膳対策 中 薬 食 材
労逸過度
肝、心、脾、
益気養血
安神
人参、党参、太子参、山薬、黄耆、白朮、扁豆、大棗、飴糖、蜂蜜、合歓花、酸棗仁、真珠粉、百合、薄荷、竜眼肉 もち米、粳米、やま芋、じゃが芋、キャベツ、干椎茸、葡萄、ライチ、鶏肉、牛肉、豚胃袋とマメ、たうなぎ、なまこ、牡蠣、帆立、玉子、牛乳
過労 肺、腎
運動不足 気、血、
津液の不足

方  剤 帰脾湯(きひとう)
炒黄耆・人参・白朮・白茯苓・炙甘草・当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志・木香・大棗・生姜

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瘀血は体内に停滞した血液で、血の固まりや血管外に漏れた色の暗い・黒い出血を指します。臓腑機能の失調、けが、邪気などの原因で血流が緩慢となり(血瘀)、血液が臓腑・組織・経絡・血管に滞ったり、詰まってしまう状態を瘀血といいます。
瘀血は六淫邪気や、七情、不適切な飲食などが原因でおこる病気の過程で臓腑機能の異常により生じる血や津液の異常代謝物質で、これらが生成されると正常な生理活動が妨げられ、新たな代謝障害の発生の原因になります。

 瘀血の形成原因


気 虚 :
血液循環を促進する力の不足
気 滞 : 気機不調で血液循環が失調
血 熱 : 血熱互結の影響で血液循環が乱れる
血 寒 : 寒邪、冷えの影響で血液循環を阻滞させる
け が : 外傷によって瘀血が生じる

 瘀血の特徴


疼 痛 :

固定している痛み、触るともっと痛くなる、針刺すような痛み(刺痛)この痛みは温めると良くなる
腫 塊 : 固まりのこと、生理出血などの固まり、体内の筋腫・腫瘤のような固まり、場所は移動することはない。
紫 紺 : 色が紫、顔色暗い、爪青紫、局部に青い斑点、舌の紫紺、舌裏の静脈が黒く張る。
出 血 : 生理不順などの不正出血、喀血、吐血、鼻血、血尿など

 瘀血の症状とその分析

症  状 分  析
頭痛・扁頭痛 瘀血により頭部の血流が緩慢になる。
舌の瘀班・瘀点・舌痛 舌の血流が阻滞される。
心胸部固定している痛み・心悸・発汗 瘀血により胸部の血流が停滞する。
咳・喘息・喀血・胸痛 肺を瘀血が阻滞する。
胃痛・脇痛・腹痛・患部を触ると酷くんる・吐血・血便 胃・肝の血流が停滞するため瘀血が形成される。
生理痛・閉経・不正出血・出血の色が黒っぽい 子宮の血流が瘀血により停滞する。
関節の疼痛・歩行困難・腫れ筋肉の疼痛 関節・筋肉の血流が停滞するため瘀血が形成される。
皮膚の紫紺・皮下出血・腫塊・皮膚のキメが粗い 皮膚の血流が瘀血により停滞する。

 瘀血に対する薬膳対策とよく使われる中薬と食材

薬膳対策 中 薬 食 材 方 剤
活血化瘀 活血化瘀:益母草、桃仁、鬱金、紅花
理気類:橘皮、仏手、柿蔕
活血化瘀:生姜、ねぎ、ちんげん菜、くわい、唐辛子、酒、酢
理気類:刀豆、えんどう豆、そば、ジャスミン、らっきょう、玟瑰花
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん) 
桂枝・茯苓・芍薬・牡丹皮・桃仁

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痰と飲はすべての水液代謝の障害で生産した病的な物質であり、したがって致病素因にもなります。痰は稠厚なもので、飲は希薄なものであるが、よく“痰飲”と合わせて呼ばれています。


 痰飲の形成原因

肺の宣降機能の失調
脾の運化機能の失調  ➡︎
腎の気化機能の失調
水湿の停滞 ➡︎ 水飲の形成 ➡︎ 寒・熱・気・火などの作用で
各種の痰症が生じる

 痰飲の特徴

気血の流れを阻滞する
水液代謝を阻滞する
清竅を塞ぐ
症状の多変性:「怪病多由痰作宗」と言われる

 痰飲の症状と分析<痰証>

症  状 分  析
咳嗽・痰多・喘息 肺の宣発・粛降の失調。
脘腹脹満・嘔吐・吐き気・食欲がない 下降すべき胃気が上逆する。
めまい 脾気の清陽不昇による頭部の営養不足。
胸悶・意識不明・癲癇・心悸 心経に詰まる、心竅を塞ぐ。
肢体麻痺・半身不随 経絡気血の運行不陽による肢体・筋肉の滋養不足。
瘰癧・痰核・梅核気・腫塊 局部の気血の運行不暢。

 痰飲の症状と分析<飲証>

症  状 分  析
咳嗽・痰多清稀・喘息・仰向けに寝られない 停留した水気が肺を犯し、肺の呼吸機能に影響する。「支飲」ともいう。
胸脇疼痛・腸満・心悸・喘息 停留した水気が胸脇を犯す、「懸飲」ともいう。
脘腹脹満疼痛・嘔吐清水・吐き気・食欲がない・腸鳴 胃腸に水気が流れ込み・胃腸の伝送機能を阻滞する。「痰飲」ともいう。
下肢水腫・又は四肢水腫・体が重い・尿少 水気が肺脾腎の働きを阻滞し、四肢・皮膚に溢れる。「溢飲」ともいう。

 痰飲に対する薬膳対策とよく使われる中薬と食材

薬膳対策 中  薬 食  材 方  剤
袪湿化痰
桔梗、杏仁、蘇子、白介子、莱菔子、瓜蔞、貝母、海蛤殻、海藻、茯苓、胖大海、白朮、炙甘草、車前草、冬瓜子 はと麦、ヘチマ、冬瓜、芥菜、里芋、のり、昆布、海藻、くらげ、みかん、ゆず、オレンジ 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) 
茯苓・桂枝・白朮・炙甘草

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